人々を元気づけるふるさとの味

石巻の東にある渡波地区。

そこに、地域の方々に親しまれる「焼きそばの店」があった。


渡波で自宅を再建した、連れ合いの知人が教えてくれた。

「地元じゃ、焼きそばといえばここの店。今度、食べさせっから。」との約束どおり、再び連れ合いが訪問した時、出前をとってくれたという。


連れ合いが言うには、「野菜と肉と、目玉焼きが乗っていて、食べる時にソースをかける」とのこと。

麺には味がついているが、追ってかけるのだそう。

後からかけるソースは、うまく調和が取れるように工夫されているようだ。


どうも、店の名前は教えてくれないらしい。

ただ、その品を食べさせてくれ、その店の焼きそばを鮮明に記憶させてくれた。

「この辺じゃ、出前といえばラーメンより焼きそば。」とも言っていたそう。


いつか食べさせたいと、連れ合いは言っていたが、突然、その機会は訪れた。

再び呼ばれて知人宅を訪問し、さて、帰る段になって引き止められたという。

そして、何と、あの焼きそばをまたご馳走になり、さらに土産に一つ頂戴したのだ。


連れ合いは、近くの店で冷凍枝豆を買って保冷材代わりにし、仕事の合間に我が家に寄って土産の焼きそばを置いていった。

ついに、あの焼きそばとご対面である。

肉と野菜と目玉焼きに、海苔と紅しょうがが彩りよく乗っている。

石巻焼そばの麺は、二度蒸しの茶色い麺だ。

なるほど、味がついていたが薄めの味付けで、炒めた麺に、具材を後から乗せるわけだ。


そこへソースをかけると、つやが出て、さらに美味しそうになる。

この、後からかけるソースは、麺についた味とはまた違う気がする。

少しだけ酸味が増し、肉や卵のコクを引き立てつつ、爽やかにする。

一皿に、変化もありつつ調和した、良く出来た焼きそばだった。


店名は謎だったが、その品を実際に味わい、盛り付けから推測して調査。

さらに、渡波で「石巻焼きそば」といえば、たぶんこの店だろう。

「豊浦やきそば専門店」さんだ。


豊浦さんの店も、津波で壊れたそうだ。

けれども、様々な人々の手助けと交流があって、再び店を開いたという。


地域の人々が好み、地域に馴染んだ店の焼きそばだ。

それは、一つの郷土料理であり、ふるさとの味といえよう。


災害で壊れた町を、一人一人が一つ一つ再生する時、そのふるさとの味も人々を力づけている。

    ※2012年8月掲載の記事より

ふくらく's Ownd

仙台で長年『ふくらく通信』を自費発行する東北人。河北仙販さんの協力で時々新聞折込中。趣味で地域に貢献出来きたらと思って活動。東北の魅力や被災地の様子、食や歴史についても発信。

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